どんなに気を付けて、どんなに下準備をして行ったとしても、発達障害を持つ子どもたちが歯医者でパニックを起こさないとは限りません。もしお子さんが歯医者でパニックを起こしてしまったら、一体どうすれば良いのでしょうか。
そうした状況下で不適切な対応をしてしまえば、更なるパニックを引き起こしてしまうかもしれません。万が一パニックになってしまった時のために、どのような対応をしてあげると良いのかをしっかりと知っておきましょう。
今回は私が心理士として発達障害を持つ子どもたちと数多く接してきた経験をもとに、発達障害の1つである自閉症スペクトラム障害(ASD)による歯医者でのパニックシーンを取り上げながら、具体的な対処法についてお伝えしていければと思います。
発達障害|自閉症スペクトラム障害(ASD)
以前は広汎性発達障害(PDD)と総称され、障害の程度や特徴などから自閉症やアスペルガー症候群、小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害などと細分化されていました。実際のところ、各障害に境界線を引くのは難しく、この疾患を連続性のある「スペクトラム」と捉えて考えたことから、現在は全てをまとめて自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder 略称:ASD)と呼ぶようになりました。ASDの特徴は「対人関係およびコミュニケーションの障害」と「こだわり、興味のかたより」であり、知的障害の有・無や程度に関わらず存在します。
ASDのお子さんの歯医者におけるパニックシーン
それでは、ASDのお子さんが実際に歯医者でパニックになってしまった話を一例としてご紹介させていただきます。
お母さんは、初めての受診でパニックにならないように、子どもと歯医者に行く前の準備を入念におこないました。受診当日、歯科医院に着いて、待合室で待つあいだも気持ちは落ち着いており、診察椅子に順調に座ることができました。治療手順の説明をして、いざ、口の中に器具を入れようとしたその時です。子どもはマスクをはめた先生の顔が突然目の前にやってきたのが怖かったのか、口元に器具が近付いてきたのが怖かったのか、「ギャー」と泣き、診察椅子の上で手足をバタバタさせてパニックを起こしてしまいました。暴れた子どもの手が先生やスタッフに当たり、足はお母さんを蹴って、大暴れです。診察椅子からも無理に降りようとしています。
こんな時、どのように対応するのが良いのでしょうか?
パニックになった時、絶対にしてはいけないこととは?
子どもがパニックに陥ってしまった時に絶対にしてはいけないこととは何なのでしょうか。
【NG1】押さえつける
お子さんがパニックになってしまい暴れたり、その辺にある器具を投げたりしてしまう行動を取ってしまったら、怪我をしないためにも心配で押さえつけてでも止めさせようとしますよね。
しかし、それが逆効果になってしまいます。大人だって押さえつけられると更にパニックになってしまいませんか?それと一緒で、ASDの子どもはなおさら不安になってしまうのです。
- 押さえつけない
- 信頼関係ができていない大人は触れない
- 危ないのであれば、物をどかす
上記の3つはパニックを起こしている時には絶対にしてはいけません。
特に、歯科衛生士や歯科助手の方、歯科医師の先生が子どもを押さえつけてしまいがちですが、その時はお母さんが止めてください。
お子さんにとって信頼関係ができていない人に押さえられることはとても不安です。ましてや医療スタッフに対する恐怖心が原因でパニックに陥っているのであれば、お子さんの味方であり、お子さんが信頼を寄せているお母さんが止めて守ってくれなければ、子どもは安心できる場所がなくなってしまいます。
物をなげたりしてしまうのであれば、子どもを押さえるのではなく、危ない物をどかしてあげれば良いだけです。支援する側が思考を変えることが大切です。
【NG2】子どもを無理に移動させる
暴れたり、奇声を発したりとパニックを起こしてしまった時、周りの人に迷惑をかけるし、お子さんを外に出そうと考えてしまうのが当たり前だと思います。
しかし、お子さんを無理に外に出すことによって、さらにパニックは悪化します。
診察室にいることが怖いと思っていながらも、無理に外に引っ張られて連れていかれる恐怖や、知らない人に触られる恐怖から診察椅子にしがみつく子どももいます。
お子さんを無理やり外に連れ出すのではなく、可能な限りその場から人や物を無くすようにして、その場で落ち着くのを待ってあげましょう。
また、お子さんを無理に外に出してしまうと、今度は戻ってくるのが非常に困難になってしまいます。
本人が外に出て行こうとするのを止めてはいけません。あくまでお子さんの意思を尊重する行動を取ってあげてください。
パニックになった時、本当はどうしたら良いのか?
パニックになってしまった時に、お子さんを安心させるために必要な大人の行動とはどのようなものがあるのでしょうか?
【OK1】落ち着くのを待ってあげる
何よりも、大切なことは「待ってあげること」です。
一刻も早く落ち着いて欲しい気持ちも、落ち着かせてあげたい気持ちも分かります。でもそれは大人の勝手な感情ですよね。
あくまで、お子さんのペースを尊重し、大人が無理に落ち着かせるのではなく、落ち着くのを待つことが大切です。
自ら落ち着くことができたら、次第に状況も理解できるようになりますし、どうして自分がパニックを起こしてしまったのかを理解することができます。
【OK2】パニックの理由、本人の気持ちを聞いてあげる
- 落ち着いた後にパニックの理由を聞く
- 本人がどうしたいのかを聞いてあげる
落ち着いた後にパニックになってしまったことを丁寧に聞いてあげましょう。その時に話を聞く場所は診察室であっても、待合室であっても、最悪の場合は家に帰ってからでもかまいません。
お子さんが話せる環境、話ができる瞬間にきちんと聴いてあげることが大切です。
何も言わない時は、話をしないのではなくて、自分でも何が不安だったのか、何が嫌だったのか分からずに言葉にできないのかもしれません。
そんな時に問いただしてしまうと、子どもは嘘でも無理やり理由を作ろうとしてしまいます。
もし、パニックになった理由を言葉にできなくても、今から本人がどうしたいかを言うことはできます。
本人が帰りたいと言えばそれを尊重しましょう。とにかく受け入れてあげることが大切です。
まとめ
発達障害の子どもがパニックになってしまった時の対処は非常に大変です。しかも、気付かないうちに、大人側も実はパニックに陥ってしまっていることもあります。
- 待つ姿勢を忘れない
- 無理をさせない
- 大人が冷静でいる
待つことは難しいですが、大人が冷静に、子どもが落ち着くのを待ってあげましょう。絶対に無理をさせたり、押さえたりすることは止めましょう。子どもも落ち着けば、歯科治療を続けることもできます。焦りは何より禁物です。
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