障害者歯科を知る

発達障がい児が乳児期からお口の感覚を意識すべき理由

近年、発達障がいと診断を受ける児童が急増しています。発達障がい児の特徴の1つとして、感覚の過敏(あるいは鈍麻)があります。

特に口腔内では、感覚が過敏になる傾向が多く見受けられます。そのような場合、適度なお口への刺激が、感覚過敏を軽減させることがあります。

今回は、障がい児に対する、乳幼児期からのお口の感覚への意識、感覚過敏の改善方法についてまとめました。

乳幼児期からお口の感覚を意識したほうが良い理由

お口は体全体の中でも特に繊細なセンサーを持つ部位です。お口の中は髪の毛1本でも敏感に反応するセンサーが備わっています。

発達障がい児の多くは、お口の中の感覚は過敏傾向にあり、そのために、過敏症状が残ると後々苦労することがいくつかあります。

[感覚過敏が残ると苦労すること]
1)歯科診療および歯磨きが困難になる
2)食べる機能(摂食機能)に問題がでる
3)口腔内の型取りができず、治療に必要な装置などの製作が困難になる
4)お口周囲の成長に伴い、消えるべき反射が残ってしまう etc・・・

感覚過敏にどのように対応すると良いのか?

ではどのようにしたら、感覚過敏が残りにくいのでしょうか。

これには明確な1つの答えはありませんが、感覚や反射の世界では、「いかにその反射や感覚部位を使うか、刺激するか」というのが大切だと言われます。

例えば、私自身の息子も発達障がい児と診断を受けていますが、5歳になった現在、大人でもなかなか簡単にはできない、お口の型取りを、いとも簡単に行うことができます。また、歯科診療や歯磨きも苦労することなくできています。

同様に、当院の自験例では、通院する障がい児の9割が、しっかりとした過程を踏んで正しい刺激をたくさん入れることで、感覚の過敏が軽減しています。

ご家庭で行える方法もいくつかあります。

根気のいる作業ですが、歯磨きの際に指をお口の中に入れて、歯茎や頬の裏をマッサージするリップマッサージ(図1)や、

(図1: リップマッサージ)

舌を歯ブラシなどで軽くタッチして刺激を与えるベロタッチ(図2)などは、ご自宅で簡単にできる刺激の方法です。

(図2: ベロタッチ)

お口の感覚が整うことで見えてくる未来

お口の感覚が整うことで、見えてくる未来があります。

現在当院では、子供の顎の発育を促す治療のために、治療用の装置を装着していただくことがあります。

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などのリハビリテーションの専門家とも連携し、口腔内に装置を入れて、顎の発育を促し、鼻呼吸を促進します。

脳機能や頭蓋の発育にも何かしら影響を与えてくれるのではないかと考えており、2025年度から臨床研究も開始予定です。

しかし、この装置を作るためには、型どりが必要です。この型どりはかなりの精密さが求められ、今、流行りの光を使った型どりもできません。

そのため、3~5分の材料が固まるまでの硬化時間を、お口の中に材料を入れて我慢する必要があります。

口の過敏や反射が多く残っている場合、この型どりができず、治療に必要な装置が製作できません。

逆に、感覚過敏が緩和され、型どりができるようになれば、装置をお口に入れることができ、顎骨から全身の発育を誘導する可能性がある装置を、治療に用いることができるかもしれません。

まとめ

今回は、障がい児が、乳幼児期からお口の感覚を意識したほうが良い理由と、感覚過敏の改善方法についてご説明しました。

ぜひ自宅でできるマッサージから、まずはスタートしてみてください。

[筆者]
歯科医師 稲吉孝介


・医療法人良実会 ハピネス歯科こども歯科クリニック 理事長
・日本口腔インプラント学会専修医
・臨床ゲノム遺伝学会 認定医
・インビザライン矯正 認定医
・日本顕微鏡歯科学会 認定医
・日本顎口腔インプラント学会
・日本小児歯科学会
・日本歯内療法学会

※関連リンク:医療法人良実会 ハピネス歯科こども歯科クリニック

当記事に関するご質問等は「障害者歯科ネットのお問い合わせページ」よりお問い合わせください。

ABOUT ME
歯科医師|稲吉孝介
2016年に愛知県にハピネス歯科こども歯科クリニックを開業。地域の小児歯科や障がい児歯科診療を中心に歯科診療を展開しています。現在は月に150人程度の障がい児の診療をしています。また、児童発達支援施設と放課後等デイサービスも運営しています。