コラム・体験談

発達障害[ASD]の息子が歯列矯正に至るまで

この春に小学6年生となる発達障害/自閉症スペクトラム症(ASD)の息子は、知的障害や感覚過敏などがあります。歯科医院は、障害者専門の歯科医院ではなく、近隣の小児歯科を選びました。かかりつけの歯科医院に通い始めて、現在5年目となります。

小学1年生の時に初めての歯科を受診し、歯石除去を主とした定期的な検診で3か月に1回ほどの通院をしました。すこしずつ歯医者での環境にも慣れてきたようで、小学3年生になる頃から歯列矯正を始め、現在も治療が続いています。

発達障害[ASD]の息子が歯列矯正を勧められた背景

通院1年目に入るころ、噛み合わせが悪いことを指摘され、歯列矯正を勧められました。息子の歯並びには、とてもたくさんの問題がありました。

上の前歯が前に位置して、噛み合わせが深い。上の前歯の間が大きく開いている。上の犬歯が生えるスペースがない。下の前歯にガタガタがある。などです。

診断は「下顎の劣成長を伴う上顎前突症」というものでした。

ASDを抱えての歯列矯正に対する親としての不安

健康保険の利用できない歯列矯正を受けることは大きな賭けのようなものであり、家族でじっくりと相談することにしました。

矯正装置が息子のストレスになって、中断することになるのではという不安もありました。

しかし、主人も噛み合わせが良くないことから、息子にできるだけのことはしてあげたいと言ってくれ、私も同じ考えでした。

歯は一生もの。息子自身が管理しやすく整えてやりたいという想いで矯正を決意しました。

矯正治療開始と最初の難関「歯の模型採取」

歯列矯正は小学3年生の春から開始することになりました。

乳歯が永久歯に生え変わる前にできるだけ顎(あご)を広げ、歯が生えそろうスペースを確保する「ムーシールド」や、口や舌の筋肉をコントロールして理想的な顎の成長を誘導する「バイオネーター」という脱着可能な装置を使い、夜間に眠っている間に歯に装着するという内容でした。

最初の関門は、その矯正装置を作るための「歯の模型採取」でした。健常なお子さんでも、型取りが苦痛で挫折することもあるそうです。歯科医師が言うには、この工程が一番大変だから、これをクリアすれば後は大丈夫とのこと。

型を採るときは、特殊な樹脂を口の中に入れ、それが固まるまで3分間程度じっとしている必要がありました。樹脂は堅めの、粘土かグミのようなものです。

事前説明後、3分間の型採りを無事にやり遂げる

先生は、事前に息子にどうやって型を採るのかや、何分終わるまでにかかるのかなどをきちんと説明してくれました。

息子は型採りの材料を口の中に入れたとたん、慣れない感触と味に変な顔をしました。しかし、泣きもせずに、タイマーを見せてもらいながら時間が少なくなっていく数字をじっと見て我慢できました。3分間を無事にやり遂げたのです。

私はときどき穏やかに声掛けをしたり、一緒に数字を数えたりして軽く励ましました。型採りを終えた後に「変な味がした」と、息子は軽く身ぶるいして早々とうがいをしました。

矯正歯科医からの丁寧な説明と毎回の褒め言葉

矯正歯科医の先生は子供への説明が丁寧で、息子も安心していました。

大きな専用のモニターでの画像で、息子にもわかりやすく、治療の目的などを説明してくれましたし、1回の治療が終わるごとに必ず息子を褒めてくれました。

先生は決して幼い子を扱うような態度ではなく、息子に対して年齢相応の対応をしてくれたことに、親としても嬉しく思いました。

幼少期から医療機関に慣れていたこともプラスに

息子はもともとアトピーやアレルギーのため通院が多く、医師や看護師さんなど白衣の人を見慣れていました。

かかりつけ医にも恵まれていたので「先生は注射が上手いんだよ」と言えば、注射も処置も泣きさけんだり、てこずったりしたことはありません。苦い粉薬も直接口に含み、水と一緒にごくりと飲み干してしまいます。

私自身も医療従事者で冷静だったこともありますが「良くなるからだいじょうぶ」と、処置の前に子供に言い聞かせ、我慢できれば必ず褒めました。親が子供と同じように不安になると、子供の不安を助長するからです。

歯科医院は就学してから通い始めましたが、幼少期から医療機関に慣れていたことも、いま思えば、歯科で落ち着いて処置を受けられたことにつながっていたと思います。

発達障害の息子と歯列矯正のモチベーション

息子は自分で発達障害があることを理解しています。息子自身が「支援学級になぜ居るのか」を受容してほしい気持ちも強く、日ごろから「発達障害があるから、覚えることが難しい。それでもできることはちゃんとあるし、覚えられるよ」と話していました。

交流学級で健常児と自分の違いに気づくと、彼自身の葛藤が芽生えてきました。本格的な思春期にはもっと葛藤が強くなると思います。その葛藤が「障害があること」を受容していれば、乗り越える力になると信じています。

「僕だって友達と同じようにできるようになりたい」とか、「イケメンになりたい」という希望を持った発言することが増え、歯列矯正と同時期ごろから、乗れなかった自転車の練習をしたり、1人でお遣いをさせたり、クリアできた達成感を経験値にすることを勧めました。

ちなみに「イケメンになりたい」という息子自身の希望は、歯列矯正を受ける上でのモチベーションになっています。

矯正装置の装着と自閉症スペクトラム症

ASD(自閉症スペクトラム症)特有のこだわりの強さは、歯列矯正においてメリットがあるようです。

息子は矯正装置を作るとき、好きな色の「青」を自分で選びました。小学3年生から5年生の中頃までの永久歯への生え変わりが終わるまで、第1期治療として、夜間の就寝時のみ装着する矯正の装置を使用しています。

就寝前に歯を磨き、矯正装置を装着して就寝することが毎日の習慣になりました。その習慣が彼に定着し、私が「装置を忘れてる」と声をかけたことはほとんどありません。

違和感はあったでしょうが、それで不眠になることはありませんでした。重い布団のチェーンブランケットを愛用しているので、その安眠効果も相まっていたと思います。

装置をつけ忘れたことがほとんどなかったことから、矯正治療の進行はとてもスムーズにいきました。

矯正の装置の中心にネジがあり、それを回すと装置が広がります。広げることによって顎を広げ、永久歯の出てくるスペースを確保していきます。通院で歯科医師が1回ネジを広げ、2週間後に私が1回広げ、段階的に息子の上顎と下顎を広げていきました。

次第に、乳歯が抜け、永久歯が生えるときにスペースが十分になると、きれいに生え揃うようになってきました。

矯正は第1期治療を終えて次の段階へ

5年生の2学期の終わりごろ、就寝時に装着していたバイオネータ―を息子が破損しました。

それを期に、全て永久歯に生え変わっていたこともあり、次の治療のステップ(第2期治療)であるブラケットとワイヤーの治療へ移行しました。これは現在も進行中です。

歯が24時間固定された状態で、矯正装置の凹凸が多く、食物が引っ掛かりやすくなるため、器用ではない息子のブラッシングでは、口の中をきれいに保てなくなってきました。

虫歯にしないように通院も2週間に1回のクリーニングを行い、歯磨き指導もしてもらっています。

まとめ|歯科通院とお出かけを組みあわせてご褒美を

息子は自転車で外出するのが好きなので、気候の良いときは私と自転車で並走して通院します。夕食の時間くらいに終わるときには、好きなお好み焼き屋に立ち寄ることもあります。

予定を人にすぐペラペラと話すため、治療中に「今日はお好み焼き屋さんへ行くんだよ」と先生に話して、「ちゃんと歯磨きしなさいよ」と言われてる会話が聞こえ、顔から火が出そうになることもしばしばありました。

自分ですることにこだわりが強く、母親に言われるよりも、先生の言うことをきちんと聞きました。次第に、診察室へ親が付き添うのを嫌がるようになり、自分ひとりで診察室へ行くと言うようになってきました。

ある日、私が待合室で待っていると、息子が先生に向かって「僕も成長してるんです!」と言う声が聞こえ、思わずふき出しました。

6年生になるこの春、彼自身が自分できちんと歯磨きをすることを毎日の日課にしていくように、しっかりとこれからも頑張っていきます。

ABOUT ME
ライターネーム「kayoon」
ライターネーム「kayoon」
思春期の娘、自閉症スペクトラム(ASD)を持つ息子の2児の母。コメディカルに従事して20数年、治療者側であったが、反対の治療を受ける側の家族の立場を経験中。息子が経験した感覚統合療法にヒントを得ながら、日々の生活を工夫することが楽しみ。