障害者歯科を知る

運動障害・肢体不自由に関する歯磨きの自助具および口腔ケア介助

私が歯科医師として障害者の歯科医療にかかわっていると下記のような質問をいただくことがあります。

「片麻痺があるため口腔ケアが上手くできません。セルフケアや介助の良い方法を教えてください。」「私の祖母は脳梗塞で麻痺があり、介助が必要です。どのようにケアをすればよいですか?」「右手首関節が拘縮しているため、歯みがきがうまくできません。いい方法はありますか?」

今回の記事ではこうした運動障害に関する質問にお答えするために、歯磨きで役に立つ自助具と口腔ケアにおける介助のポイントをご紹介いたします。

そもそも運動障害・肢体不自由とは?

運動障害とは運動機能の障害のことです。身体障害者福祉法では、身体障害者とは、①視覚障害、②聴覚又は平衡機能の障害、③音声機能、言語機能又はそしやく機能の障害、④肢体不自由、⑤内部障害と定義づけられています。

その中で、運動障害は「④肢体不自由」に該当します。そして、この肢体不自由とは、上肢(手と腕)下肢(脚と足)または体幹(胴体)の機能の著しい障害で永続する(治らない)ものと定義されています。

身体障害児・者の生活の実情とニーズを把握することを目的に、厚生労働省が行った平成18年身体障害児・者実態調査では、全国には3,483,000人の身体障害者がおり、その約半数(1,760,000人)が肢体不自由であると報告されています。

日本の人口を1.2億人とすると、その割合は約1.5%と多くを占めます。100人の歯科診療をすれば、1-2人は運動障害の方がいるということです。そのため、前述のような質問がたくさん出てくるのは、ごく自然のことであると思われます。

そして、運動障害の方に適切な歯科医療を提供する、または、運動障害の方の口腔ケアをサポートすることは歯科業界が一丸となって進めていかなくてはいけない重要な課題の1つであると筆者は考えます。

運動障害には様々な分類がある

運動障害を呈する疾患は様々で、以下のように分類することができます。

  • 中枢神経系 :脳性麻痺、二分脊椎、水頭症、脳血管障害など
  • 末梢神経系 :外傷による神経麻痺など
  • 骨・関節系 :関節リウマチ、外傷後遺症など
  • 筋肉系 :筋ジストロフィーなど

また、いつ発症したかでも分類することができます。先天性(生まれながら)の運動障害の原因には、脳性麻痺や、重症心身障害、筋ジストロフィーなどがあげられ、中途障害の(生活していく中で発症した)原因には、脊髄損傷や関節リウマチ、脳血管障害などがあげられます。原因となっている疾患や障害によって、その他の身体障害や知的障害(精神遅滞)、てんかんなどの障害を伴う場合があります。

歯磨きには「自助具」を活用しよう

運動障害の状態や程度は、人によって様々です。残存機能の状態や、利き手や腕の動き方、本人がどこまで磨けるかなどを診察する必要があります。歯科医師や歯科衛生士に相談することで、適切な歯ブラシの選択や歯磨きの工夫に関する助言、自助具の紹介を受けることができます。「自助具」とは運動障害による日常生活の困難をサポートするための器具です。

【1】市販の自助具を探そう

最近ではより多くの人に配慮した考えで作られたユニバーサルデザインの自助具が販売されています。以下に、歯みがきに関連する市販の自助具の一部を紹介します。

歯磨き粉を上手に付けられる「パラリンコップ」

コップに歯ブラシがセットでき、歯磨き粉を片手で付けることができます。飲み口に凹凸がついていて、麻痺側からの水こぼしや、むせ込みを防ぐことができます。

[参考] パラリンコップURL:https://www.paralym.com/

握力が弱くても滑りにくい「すべりにくいグリップ」

差し込むだけで握力の弱い方でも滑りにくく、しっかり握ることができます。歯ブラシだけでなく、スプーンやフォーク、筆記用具などにも取り付けられます。差し込み部は特殊な形状で、丸い柄にも、四角い柄にも対応しています。

[参考] 使っていいね!すべりにくいグリップURL:https://www.richell.co.jp/shop/lifecare/detail/19101/19101

その他:工夫次第で自助具に利用できるものもある

自助具として販売されていない日用品などの中にも、工夫次第で自助具に利用できるものもあります。例えば、ホースをカットし歯ブラシの柄を挿入したり、歯ブラシの柄にガーゼを巻き付けたりすれば、すべりにくいグリップのようなものが作れます。障害の状態や程度によって、自助具に求める内容は異なってきます。市販品を組み合わせたり、改良してみたりすると、よりその人に合う自助具になります。作業療法士に相談してみるのも1つです。

【2】究極の歯磨き自助具「電動ブラシ・音波ブラシ」

電動ブラシや音波ブラシに対して否定的な専門家もいますが、筆者は、これらは究極の自助具だと思っています。なにせ、歯に当てているだけで磨いてくれるのですから。

しかし、これには「ブラシ部分を歯に当てなくてはいけない」といった欠点があり、まだまだ複雑な動作が必要になります。不随意運動や体位制限のある方には、この行為が困難な場合があります。ある小児歯科・障がい者歯科を実践している先生が、解決策の一例として、次のような工夫アイデアを紹介してくれました。

[STEP1]
電動歯ブラシのヘッドと円筒型歯ブラシを用意する

[STEP2]
それぞれを柄の部分で切断する

[STEP3]
電動歯ブラシの根元に円筒型歯ブラシの先端を付ける

[STEP4]
円筒型電動歯ブラシの完成

これであれば毛先の方向やブラシ圧を気にせず、また、手磨きのようにブラシの前後運動をしないで当てるだけで磨けます。頬に当たると痛いかもしれないという懸念はありますが、実際に試してみると気にならない程度とのこと。実際にこの円筒型電動歯ブラシを脳性麻痺の患者さんに導入したことがあったそうです。

*注意:けがや事故につながるといけませんので、歯科医師や作業療法士の指導の下で行ってください。

口腔ケア介助のポイント

【1】残存機能の確認

運動障害の状態や程度は、人によって様々です。少しの介助で歯磨きができる人から、100%の介助が必要な人もいます。そのため、対象者の運動機能がどの程度なのかを知る必要があります。利き手や腕の動き方を確認し、本人がどのくらい自分で磨けるかを把握します。麻痺などで片側の手がうまく動かせない場合は、健側(動かせる方)で磨きます。

【2】自立をサポートする

「自律的生活を可能にするよう援助する」ことが介助の基本理念です。そのため、本人の意思で、出来る限り本人が口腔ケアを実施します。介助者は声掛け・手添えなど必要に応じた手助けをしていきます。障害の状態や程度は人によって異なるため、具体的な介助方法は歯科医師や歯科衛生士・作業療法士・理学療法士に相談しましょう。また従来の習慣にとらわれず、移動しなくても歯磨きできる環境作りをしてお互いの負担を減らすことも大切です。

【3】誤嚥は危険

「誤嚥」とは飲食物や唾液、口腔内の汚れを誤って気管や肺に飲み込んでしまうことをいいます。そのような場合、通常はムセ(咳)をして気管に垂れ込んだものを吐き出す反射が起きます。これを咳嗽反射といいます。しかし、麻痺の程度により嚥下障害がある人や、寝たきりなどの体位に制限がある人、意識障害がある人は、咳嗽反射が起きても、異物を上手く吐き出せないことがあります。さらに、障害の程度によってはこの反射が起きない場合もあります(不顕性誤嚥)。この誤嚥や不顕性誤嚥は、肺炎を引き起こす可能性があります。誤嚥のリスクや、嚥下機能の程度を評価したいときは、歯科医師へ相談しましょう。

【4】誤嚥の予防方法

麻痺の程度により嚥下障害がある人や、寝たきりなどの体位に制限がある人、意識障害がある人に口腔ケアを行う場合は、水や唾液、汚れが咽頭部に流れ込まないようにすることが大切です。重度の片麻痺がある場合は、健側(麻痺がない側)を下にした側臥位をとります。側臥位が困難な場合は、首だけでも健側に回旋します。このような方に口腔ケアを行う場合、水や唾液、汚れを吸引しながら行います。吸引できない環境の場合は、水分をなるべく抑え、ガーゼやスポンジブラシなどで、汚れを回収しながら行います。

まとめ

いろんな器具を使ったり特別な方法をとったりすると、何か手抜きをしているようで、後ろめたさを感じる保護者や支援者がいらっしゃいますが、上手に利用し上手に手抜きすることでストレスを軽減しましょう。なにせ、歯みがきは一生するものですから。

[執筆/監修歯科医]
黒田 英孝

[執筆協力]
クローバー歯科(千葉県船橋市)院長 矢吹達郎 先生
URL:http://cloverdc.com/

船橋市さざんか特殊歯科診療所(千葉県船橋市)“歯科衛生士の方”
URL:https://funashi.or.jp/sazanka

※当記事に関するご質問等は「障害者歯科ネットのお問い合わせページ」よりお問い合わせください。

ABOUT ME
執筆歯科医師|黒田英孝
執筆歯科医師|黒田英孝
神奈川歯科大学附属病院 麻酔科 講師、ホワイト歯科クリニック(群馬県高崎市)非常勤医として、障害を持つ方々の歯科医療に従事しています。静脈内鎮静法や全身麻酔を応用し、安全な歯科医療を提供しています。※参考リンク:神奈川歯科大学附属病院ホワイト歯科クリニック