障害者歯科を知る

脳性麻痺の不随意運動を考慮した口腔ケアと歯科治療の進め方

目次

脳性麻痺とは

脳性麻痺(Cerebral Palsy)は以下のように定義づけられています。

脳性麻痺とは受胎から新生児期(生後4週間以内)までの間に生じた脳の非進行性病変に基づく,永続的なしかし変化しうる運動および姿勢の異常である。その症状は満2歳までに発現する。進行性疾患や一過性運動障害または将来正常化するであろうと思われる運動発達遅延は除外する。 [厚生省脳性麻痺研究班会議(1968)]

脳性麻痺は運動と姿勢の発達が障害された一群をさす。その障害は、胎児もしくは乳児(生後1歳以下)の発達途上の脳において生じた非進行性の病変に起因するもので、活動の制限を生じさせる。脳性麻痺の運動機能障害には、しばしば感覚、認知、コミュニケーション、知覚、行動の障がいが伴い、時には痙攣発作がともなうことがある。 [Executive Committee for the Definition of Cerebral Palsy(2005)]

*脳性麻痺は運動や姿勢の障害であり、必ずしも知的障害(精神遅滞)や、てんかんを合併するわけではありません。

脳性麻痺の不随意運動

脳性麻痺は痙直型、アテトーゼ型、固縮型、失調型、混合型に分類され、タイプによって症状が異なります。頻度が高いのが痙直型とアテトーゼ型です。

痙直型は、四肢の動きが少なく、わずかの刺激で筋緊張が強く出るのが特徴です。アテトーゼ型では四肢の不随意運動(自分の意思にもとづかない運動)、筋緊張の変動などがみられ、不安などの精神的緊張で不随意運動が強くなります。

また、脳性麻痺は、原始反射が残存します。原始反射とは、乳幼児が特有の刺激に示す運動反射で、一般的には成長過程で消失します。原始反射も不随意運動の1つです。

毎日の口腔ケアと歯科治療の進め方

脳性麻痺の方は、仰臥位(仰向け)にして股関節や膝関節を伸ばすと、不随意運動が出やすくなります。また、押さえつけて抑制すると、かえって緊張が高まり、不随意運動を助長します。

そのような場合は、Bobath(ボバース)アプローチにもとづいた反射抑制姿勢をとることで、不随意運動を軽減できます。

反射抑制姿勢
①頭部と肩・肩甲骨を前屈させる(膝枕をしたり、クッションを入れたりする)
②股関節と膝関節を曲げる(三角型やロール状のクッションを膝の下に入れる)

診察チェアで歯科治療を行う上では、上体を安定させたり転落を防止したりする目的で、ベルトで骨盤部を固定したりします。これらの方法を用いても不随意運動が大きく安全に治療を進められない場合は、静脈内鎮静法や全身麻酔を併用して歯科治療を行います。

突然、口の中に歯ブラシをいれると咬反射を誘発し、歯ブラシを破損したり、口腔内を損傷したりするため注意が必要です。

まとめ

脳性麻痺の症状はぞれぞれです。安全で的確な口腔ケアと歯科治療の進行には、個々の運動機能や知的機能を把握し、適切な器具の選択や把持法を工夫する必要があります。

※当記事に関するご質問等は「障害者歯科ネットのお問い合わせページ」よりお問い合わせください。

ABOUT ME
執筆歯科医師|黒田英孝
神奈川歯科大学附属病院 麻酔科 講師、ホワイト歯科クリニック(群馬県高崎市)非常勤医として、障害を持つ方々の歯科医療に従事しています。静脈内鎮静法や全身麻酔を応用し、安全な歯科医療を提供しています。※参考リンク:神奈川歯科大学附属病院ホワイト歯科クリニック