歯科コラム・体験談

【統合失調症の母】私の歯科衛生士としてのかかわり方

私は歯科衛生士をしており、統合失調症の母がいます。

私が母のことを「なんか変だな、友達のお母さんと違う」と感じたのは小学校低学年の頃でした。

当時の母は被害妄想が激しく、常に不安や恐怖にさいなまれていました。布団から出ることはほとんどなく、眠ることもせず、ずっとブツブツ独り言を言う毎日。

私はそんな母を持ち、気付けば「ヤングケアラー」(家事や家族の世話、感情のサポートなどを行う子供)となっていました。

目次

統合失調症にはステージがある

統合失調症にはいくつかのステージがあり、以下のように分けることができます。

[前兆期]

・発症の前触れのサインがある。
・眠れなくなる。
・物音や光に敏感になる。
・あせりが強くなる。

[急性期]

・幻覚・妄想・興奮が目立つ。
・不安や緊張感、敏感さが極度に強まる。
・周りとのコミュニケーションがうまく取れない。

[休息期]

・感情の起伏が乏しい。
・無気力。
・いつも寝ている。
・引きこもる。
・不安定で少しの刺激が急性期に逆戻りしやすい。

[回復期]

・徐々に症状が治まる。
・認知機能障害が現れることもある。

※参考:統合失調症ナビ

私の母の場合は、急性期と休息期が交互にありました。薬を飲みたがらないので、幻覚や妄想で興奮状態になると、それを落ち着かせるのにとても苦労しました。

統合失調症の母の歯への無関心

今思うと、「母がちゃんと歯磨きをしている姿を見たのはいつだろう…」、記憶をたどってもなかなか思い出せません。

母は60代ですが、上の歯はかろうじて2本残っており、部分入れ歯。下の歯はありませんので総入れ歯を入れています。症状が落ち着いているときに歯科医院で作ってもらいました。

とはいえ、「入れ歯は痛いから嫌だ。」「入れ歯はなくても食べられる。」と言って外出する時だけ仕方なく入れているといった具合です。

歯に関心を持って欲しい私が、母にしたこと

そこで分かったことは
・本人に合ったものを使う
・本人がやる気があるときだけやる
・最低限のことから始める

専門の知識があるからこそ、相手が身内だからこそ、あれもこれもと押し付けがちになってしまいます。

「歯を磨く」以前に「やる気のケア」をしないことには始まりませんでした。今日は10秒だけ磨いてみよう。歯磨きして、明日はおいしいケーキを食べよう。などなど、

初めのうちは、歯磨きになんとか興味をもってもらうことに努めました。洗面所に行くこと自体面倒だというので、寝床に歯ブラシを持っていくようにしていました。

歯ブラシはヘッドの大きいものを使う

歯ブラシといっても、形も大きさも毛の状態も様々です。当時の母の口腔内は、むし歯や歯周病はあったものの、まだたくさんの歯が残っていました。

本当はお口の大きさに合わせて、小さめの歯ブラシを使って細かく磨いてほしいところですが、そうはいきません。

あえてヘッドはが大きなものを選んだことで、めんどくさがりの母がザっと磨いても、多くの歯にブラシの毛が当たるので効果的でした。

歯ブラシはやわらかめのものを使う

母の場合は、歯周病で歯はグラグラ、歯ぐきが腫れたり、出血もしていたのでやわらかい歯ブラシを選びました。

もちろん動かし方が激しいと痛いですが、毛が柔らかいので安心して使うことができたようです。

うがいはしっかりする

私が歯ブラシよりも気を付けたのが「うがい」です。なぜなら、道具を使わず簡単だから!

健康な成人で唾液が1日1.0~1.5ℓ分泌されると言われています。一般的に唾液は、自浄作用といって歯や歯間に付いた食べかすなどをある程度洗い流してくれる役割があります。

しかし母の場合、服用していた「抗精神病薬」の影響で唾液の分泌が少なくなっていました。そのため、口の中が乾燥し、細菌が繁殖しやすくなります。

食べかすや歯磨きで取り除いた歯垢を流すために、できるだけ長く、強めにうがいをしてもらいました。

口腔ケアによって母にもたらされたもの

歯磨きやうがいが定着するまでには本当に時間がかかりました。

しかし、これによって私が一番嬉しかったことが、表情がでるようになったことです。母は無表情が多かったので、筋肉がこわばり、顔の表情が上手く出ませんでした。

あくまで私の考察ですが、引きこもっていたために表情筋を動かすことが不必要だった母が、歯磨きやうがいで顔や口の周りの筋肉が刺激され、その結果、表情がでるようになったのだと思います。

まとめ

精神疾患者は、お風呂に入ったり、歯磨きをしたりというような日常的なことができなくなる傾向にあります。

臭いが出てきたりするため、一緒に暮らす家族はどうしてもこれを責めたりしがちです。私も昔はそんな母を見るのが嫌でたまりませんでした。

統合失調症は脳の病気だと言われています。それを知り、母のことを理解するまで非常に長い年月がかかりました。

今はインターネットが普及し、様々な情報をすぐに得ることができます。コミュニティもたくさんあります。どうかそういったものを上手く利用してください。あなたはひとりではありませんよ。

ABOUT ME
歯科衛生士|Y.S.
「たかが歯磨き、されど歯磨き」をモットーに、お口のケアによってもたらされる健口と生き生きとした表情をつくることが自分のテーマ。 私にとって、人の笑顔が一番の喜びです。統合失調症の母をもつ子供の立場、歯科衛生士としての立場や経験を通して、お口のケアで目の前の人を笑顔にできるような取り組みを考えています。オレンジやレモンピールが大好き。