歯科コラム・体験談

うつ病になった私がふたたび歯磨きできるようになるまでの話

私は大学卒業後に地元で就職し、企業の人事総務部において労務管理・人事管理を行う中で、徐々に責任のある仕事を任せられるようになっていきました。

ある日突然、頭痛とめまいからパソコンを見ることが辛くなり、午前勤務のみに変えてもらうようになりました。

友人から「すごい痩せたね」と声をかけられたのをきっかけに、体重が1カ月の間に15キロ減っていることに気付き、勧められるがままに病院を受診することになります。

そして、私はうつ病と診断されました。今回は突然うつ病になった私が歯磨きできなくなり、ふたたび歯磨きできるようになるまでの話をお伝えできればと思います。

目次

うつ病で落ち込んで歯磨きにまで意識が回らない日々

もとより神経質ではありましたが、「まさか私が…」という思いよりも、何故か虚しく、何も出来ないという劣等感、何もしたくない、食べたくない何をやっても何も感じない虚無感にさいなまれ、毎日ベッドで過ごす日々でした。

社会からのドロップアウト、そして精神疾患という自分の中での偏見から、よりいっそうネガティブな感情が湧き出て落ち込む毎日でした。

食事を受けつけないため摂食障害にも陥り、飲食は服薬のときのお水と、週に1度のヨーグルトのみ。

眠剤を飲んでも不眠が続き昼夜が入れ替わったような暮らし。身だしなみにも気を配ることが難しく、歯磨き/口腔ケアにまで意識も回らず、普通の健康な暮らしをしていた頃には考えられないような状況でした。私は歯磨きをほとんどしなくなりました。

歯磨き粉が使えずに歯磨きゼロで歯科通院したことも

入浴と歯磨きは歯科医院へ行く前日や当日にしていました。歯磨き粉の風味で吐き気がするため、辛いときは歯磨きをせずに、マスクをしてボロボロな格好で通院することもありました。それが1年半ほど続きました。

主治医の先生は、多くは語らず、ウンウンと頷くタイプの方で、普段の暮らしはどうしているの?とゆっくり聴いてくれました。

不健康な暮らしについて自信喪失していることに加えて、自分をみんなが見て笑ってるのではという視線恐怖があった私の言葉に対して「うんうん」と頷いてくれました。

先生は、「ひとつずつ、朝昼晩いつでもいいから洗面台で何かしてごらん。鏡を見なくていい。口をすすぐだけでもいいし、髪にブラシするだけでもいい。着替えるついでに何かひとつ行動をしてみてごらん。だんだん出来るようになるから。気持ちがいいかもしれないよ」と言ってくださいました。

しかし、しばらくは行動に移せませんでした。口の中にものを入れる気持ちわるさに加えて、歯磨き粉の風味で吐き気がしたこともあって、ダルさや億劫さが先行してしまっていました。

口の中が乾燥しやすいことに気づいてからの変化

次の受診の日、何もしていない罪悪感でいっぱいでしたが、先生に「今飲んでいるうつ病の治療薬は、口が乾く作用があります。だから、水分を取りたくないかもしれないけれど、口をすすいだり、水を口にふくむ練習をしてほしい。」と言われました。

今まで意識していませんでしたが、言われてみて確かに口の中が乾燥していることに気が付きました。そして、口をすすがなきゃ!口に何かふくまなくては!と思い始めました。

そうすると、2-3日に1回だったうがいが、1日1回に。そして徐々に回数が増え、歯磨き粉をつけないで歯磨きすることが出来るようになっていきました。その姿を見た父が、気を利かせて無香料の洗口液を購入してくれました。

先生のアドバイスから半年ほど経ち、ものを口にふくむ行為に対しての抵抗が徐々になくなり、「飲む」「食べる」ということを、1週間に1食から2-3日に1食のペースで出来るようになりました。体重も当初30kg半ばでしたが、30kg後半になり、少しではありますが外出できるようになりました。そして、ポジティブな意識が芽生えるようになっていったのです。

最終的には、香料のついた歯磨き粉を使えるようになり、デンタルフロスも使えるようになりました。

うつ病と付き合いながら自分らしい清潔な暮らしを

治療のおかげでもあるとは思いますが、先生の言葉ひとつで、口にものを含む抵抗感が薄まり、食事や水分を摂れるようになりました。家で閉じこもってばかりの暮らしが変わり、いわゆる普通の身だしなみを整えることが出来るまでに回復することが出来ました。

外出も近場であればひとりで出来るようになり、行けなかった歯科医院にはもちろん、ヘアサロンなどにも足を運べるようになりました。うつ病と付き合いながら、自分らしい清潔な暮らしを取り戻すことが出来ました。

うつ病の症状には、(1)抑うつ気分、(2)興味・喜びの減衰、(3)著しい体重減少、(4)イライラ感や億劫さ、(5)疲れやすさや気分の減退、(6)不眠もしくは睡眠過多、(7)思考力や集中力、決断力の減退などがあります。

そしてこれらが長期間続いた場合に、うつ病と診断されます。うつ病の方と接する場合、「傾聴」と「支持的態度」が大切です。訴えが長くてわかりにくくても耳を傾けます。不合理な内容でも頭ごなしに否定せず、訴えを受け止めます。

本記事の筆者の方は、うつ病という疾患をよく理解した先生に出会えたことで、口腔ケアが出来るようになっていき、とてもよかったと思います。

[監修歯科医師:黒田 英孝]

ABOUT ME
ライターネーム「Iseoi」
30代の猫好き専業主婦。京都の大学卒業後、20代後半よりうつを患い退職、ひきこもり、父の看病、結婚、出産、義母介護などを経験。時々ライターなど細々と。