歯科コラム・体験談

精神障害の方の入れ歯をお手入れするための支援方法

精神障害を持っている方の中には、口腔衛生面に課題を持っている方が多くいます。実際に障害者支援施設に入所された時には、すでに歯が抜け落ちてしまっている方や、残っている歯が数本という方も少なくありません。

病気や障害、薬の副作用などにより、歯磨き自体が面倒になったり、その必要性を十分理解することが出来なかったりすることで、結果的に歯を失ってしまうのです。

歯がないと食事をうまく摂ることが難しいため、そのような方には入れ歯の提案をすることがあります。入れ歯を気に入って使用される方も多いのですが、一方で、その入れ歯の手入れが課題となることも少なくありません。

障害者支援施設の支援者として、私が実際にどのように入れ歯のお手入れをしているのかを今回はお伝えしていきたいと思います。

目次

入れ歯をお手入れする必要性を一緒に学んでいく

入れ歯を使用することにより、「食事がスムーズになる」「発音がはっきりする」「顔の印象が変わる」ことから気に入ってくださることは多く、入れ歯の使用を通して歯の必要性を理解していただけることが多くあります。

継続して入れ歯を使用するということは、それだけ手入れが必要ということです。きっと、自分で入れ歯を正しく手入れができる方は、歯を失うことにならなかったでしょう。

入れ歯も歯と同じ。きれいに磨き、洗っておかなければ、口腔内細菌が付着・繁殖することで、とても不衛生になっていきます。

新しい入れ歯を入れたとき、歯科医院で入れ歯の管理方法について教えていただきます。入れ歯は、寝るときには外して洗浄液に浸し清潔を保つことが必要です。私は、歯科医院から頂いた資料をもとに利用者と共に学び、ドラッグストアに行ってどのような口腔ケア商品があるのかを学ぶようにしています。

精神障害者の支援は、支援者と本人が一緒に理解しながら行うことが重要です。そのため、支援者側も正しい知識を身につけなければいけません。

入れ歯をお手入れするための場所・道具を考える

精神障害者の方に関わらず、他者が入れ歯を見て思う感想は、プラスのイメージではなくマイナスのイメージの方が強いのではないでしょうか。入れ歯の見た目に抵抗を感じる方もいらっしゃると思います。

実際に入所施設で支援を行っている中で、皆が使う共有の場所で入れ歯を口から取り出して洗っていたところ、他の利用者は不快だったようでトラブルになったことがありました。

お手入れをすることは大事なことですが、周囲の人々がどう思うか、今その場で行ってよいのかなどの判断を精神障害者本人が行うことが難しいことが多く、課題となることがあります。

対人関係やコミュニケーションについての障害を抱えている方も多く、言われた言葉に落ち込み、体調を崩したり、暴力行為に及んでしまったりするケースもあります。

そのようなことにならないためにも、適切な場所や相手への配慮を一緒に考え、また適切な道具を使用する練習を行っていくことが重要となります。

入れ歯をお手入れしなかったことで起こりえること

汚れた入れ歯を使用し続けたことにより、口腔内に炎症が起き、治療が必要になった方がいました。また、毎日入れ歯を使用しなかったことにより、入れ歯が口に合わなくなった方もいました。

また、不衛生な入れ歯は自身の身体に影響があるだけでなく、時には人間関係や他者との交流に影響を与えます。口臭がひどく、それを指摘されたことで他者との交流を避けるようになった方もいました。

まとめ

「歯」や「入れ歯」はとても大切なものと認識させること、認識する手助けをすることが、精神障害の方に対しては必要だと感じています。これからも歯を失った方に元気を与える入れ歯と上手に付き合っていけるよう、私たち支援者もその重要性を日々感じながら、より良い支援方法を学び続けていきたいと思います。

物事への適応力が低下する精神疾患の方にとって、「入れ歯の管理をする」というような面倒くさい作業は、とても大変なことなのだと思います。疾患のことを理解している支援者の方が一緒に作業することで、疾患のために今までできなかったことができるようになってくる方もいます。かかりつけの歯科医や精神科主治医とよく相談しながら、一人一人にあった支援の仕方を考えていくことが大切です。これからも頑張ってください。

[監修歯科医師:黒田 英孝]

ABOUT ME
ライターネーム「Sleepy」
10年以上、福祉関係の仕事に就いています。精神保健福祉士・介護福祉士を持っており、精神科病院の職員ですが、同法人の施設において精神障害者の方を中心として支援を行っております。仕事はまじめに楽しく笑顔をモットーに毎日すごしています。