障害者歯科を知る

自閉スペクトラム症のための歯科治療の視覚構造化

精神遅滞(知的障害)や自閉スペクトラム症のある方と上手にコミュニケーションをとるには、いろいろな対応が必要です。歯科治療中においても様々な技法や工夫がとられています。今回はそのような技法のひとつをご紹介します。

自閉スペクトラム症への視覚構造化による対応

精神遅滞や自閉スペクトラム症のある方とのコミュニケーションをとる方法として、目で見てわかりやすいように絵や写真、実物などを用いて、日常の生活などをスケジュール化するとスムーズにいくことがあります。

特に自閉スペクトラム症の方は「今から何が起こるのだろうか」「いつまで待てば良いのだろうか」と予測困難なことを突然言われても不安や混乱をきたし、通常できることでも不可能になってしまうことがあります。

TEACCH(自閉スペクトラム症およびコミュニケーション障害の小児のための治療と教育)と呼ばれるプログラムでもPECS(絵カード交換式コミュニケーションシステム)を、言葉を補うコミュニケーション法として用いています。

絵カードやスケジュールを用いた視覚支援では、場所や空間のもつ意味、予定などを目でみてわかりやすく工夫すること、つまり「構造化すること」これが、コミュニケーションをとる方法として重要で大切なのです。

自閉スペクトラム症の方は一般に聞いて理解するより、見て理解する方が得意だといわれています。個々の特性を生かし、理解して、その特性にあった構造を作り、理解しやすい環境づくりをしなくてはいけません。人によっては、時間という目に見えないものも視覚構造化すると理解が増すことがあります。

TEACCHプログラム

TEACCH(Treatment and Education of Autistic and related Communication-handicapped Children)プログラムは、自閉スペクトラム症やその家族、関係者(グループホームの支援者など)の生活を生涯にわたって支援していくための包括的プログラムで、アメリカのノースカロライナ州で始まった支援プログラムです。今は世界各国にこのプログラムは広がっています。

TEACCHの理念は以下のように掲げられています。

(1) 自閉スペクトラム症の特性を理論よりも観察から理解する
(2) 親と専門家の協力
(3) 個別の教育プログラムを作成するために正確に評価を行う
(4) 構造化された教育法を利用する
(5) 認知理論と行動理論を重視する
(6) スキルを強調するとともに弱点を認める
(7) ジェネラリスト(自閉スペクトラム症に関わる人は自閉スペクトラム症を取り巻くあらゆる問題に精通していなければならないという考え方)であること
(8) 生涯に渡り、地域(コミュニティ)に根ざした生活を送る

歯科診療における視覚支援の構造化

まず自閉スペクトラム症の方がどのような方法で日々過ごしているのかを知ることが必要です。そして、自宅や施設などで行っている方法に応じて素材を準備することが望ましいです。具体的な構造化には、以下の3つの方法があります。

  1. 物理的構造化:ものの配置を工夫して場所や場面の意味を視覚的にわかりやすくする
  2. スケジュールの構造化:予定されているスケジュールを図や表にして示す
  3. ワークシステム:作業内容の量・時間などを的確に示す
    (例えば、キッチンタイマーなど)

自閉スペクトラム症の方には、治療手順をスケジュール化することが効果的であるとされています。器具などの絵を治療手順どおりに並べて一つ終わるごとに取り除く方法がよく用いられています。

視覚支援に用いる素材は、細部や背景などが写っていると混乱を生じてしまう可能性があるので、余計な情報は排除します。そのため、一般的には写真ではなくイラストを使用します。しかし、反対に写真のような具体的なものでないと、「異なるもの」と判断してしまい、受け入れてくれないこともあるので、個々の特性を考えて作成しなければなりません。

具体的な構造化の例を、以下に紹介します。

物理的構造化

[例]
a) 靴を脱ぐ場所を足形でわかりやすく示す

b) パーテーションで区切り、落ち着く環境に整える

スケジュールの構造化

[例]
a) 初めて歯科診療所に来た時の治療の流れを絵で示す

b) 抜歯(歯を抜く手術)の時の治療の流れを絵で示す

c) 虫歯の治療の流れを絵で示す

ワークシステム(治療にかかる時間を視覚的に示す方法)

[例]:10カウントマグネットを使用した事例
1〜10までの数値の意味はわかる方が多いので、10カウントを1回として10カウントできたらマグネットを外してもらいようにすれば、あとどのくらい頑張ればよいのか先の見通しがつき安心する。

スケジュール化のための素材がないときは

もしかかりつけの歯科医院や最寄りの歯科医院に、スケジュール化のための素材がなければ、「①次回の治療はどのようなことをするのか、②どのくらいの治療時間なのか」を事前に先生に相談し、絵やカードを自宅などで作成し、本人に「次回の歯医者さんではこれをしようね」とあらかじめ伝えておくと効果的です。

スケジュールを用いるときの注意点

スケジュールを提示したのであれば、基本的にそのスケジュールで作成した治療のみしましょう。当日にスケジュール以外の治療に変更した場合、本人が不安からパニックを起こし、元のスケジュールの治療さえ行えず、自傷行為や他害行為に発展する可能性もあります。もし、急遽治療内容を変更する場合は本人の精神状態を確認してから、変更するべきです。強い拒否があった場合はやめましょう。

さいごに

精神遅滞の方や自閉スペクトラム症の方はもちろん、他の障害をお持ちの方も、できれば地域の歯科医院で診てもらうほうが便利ですし、何かあったときにすぐに見てもらえると思います。

大学病院や障害者センターなど以外にも、積極的に取り組んでいる地域の先生方が増えてきています。さらにこういった知識なども広く知られてきています。

ぜひ、かかりつけの歯科医院や最寄りの歯科医院の先生にご相談してみてください。先生方も一緒になってどうやったら治療ができるか考えてくださると思います。

[筆者]
歯科医師|冨田 智子(京都府/京都市)

博士(歯学)
日本歯科麻酔学会 歯科麻酔専門医/認定医
日本障害者歯科学会 認定医

※当記事に関するご質問等は「障害者歯科ネットのお問い合わせページ」よりお問い合わせください。

ABOUT ME
歯科医師|冨田智子
歯科医師|冨田智子
京都市で障害者支援に携わっています。障害をお持ちの方への歯科治療の方法を、通法での歯科治療から薬物を用いた全身管理まで、一番良い方法を考えて選択しています。このような形で、皆さんのお役に立つことができれば光栄です。