歯科コラム・体験談

パーキンソン病になった私が歯磨きと歯科受診でやっていること

私が若年性パーキンソン病と診断されたのは30代前半。今から5年ほど前になります。当時の私は看護師をしていて、パーキンソン病がどんな病気であるか知識としては知っていましたが、この年齢で私自身が発症するとは考えてもいませんでした。まずパーキンソン病について少し説明したいと思います。

パーキンソン病とは

パーキンソン病の主な症状には以下のようなものがあります。

  1. 振戦:手足の震え。自制できない。
  2. 固縮:筋肉が硬くなる。
  3. 動作緩慢:動きがゆっくりになる。
  4. 姿勢反射障害:体のバランスが悪くなりふらつく。

またパーキンソン病には「オン」と「オフ」という表現があります。

  • 「オン」:薬が効いている状態で普通の人のように動くことができます。しかし効きすぎると、「ジスキネジア」といって自分の意思とは関係なく勝手に体が動き出します。
  • 「オフ」:薬が切れかけている、もしくは切れている状態で動きにくさや怠さ、思考力の低下を伴います。

私とパーキンソン病【①毎日の歯磨き】

私の場合、右半身から症状が出始めました。特に不便だと感じている動作は、1日3回行う歯磨きです。そこで、私が歯磨きをする際に試してみたことや、歯磨きをするタイミング、私自身が歯医者に行った時にこのようにしてもらったら助かるといった内容をまとめてみました。

歯磨きをする際に試してみたこと

私は「オフ」の状態になると、指先の力も弱くなるため歯ブラシを上手く持つことができません。今までの持ち方だと歯ブラシを落としてしまうため、赤ちゃんがスプーンを持つようにただ握るという持ち方に変えてみました。

すると、歯ブラシを落とすことなく歯磨きができるようになりましたが、細かい動きができませんでした。左手で挑戦してみましたが、利き手ではないため、納得のいく歯磨きをすることができませんでした。

電動歯ブラシに変えてみたらどうだろう?と思い、何度か挑戦したこともありましたが、私の場合は、なんだか磨いた感じがせず、普通の歯ブラシに戻しました。現在は一般的な歯ブラシとマウスウオッシュを併用しています。マウスウオッシュは爽快感が得られるので気に入っています。

歯磨きをするタイミング

「オン」と「オフ」の時ではどちらが歯を磨きやすいかといえば、もちろんオンの時です。それはオフの時に比べて動きやすいからです。

しかし、同じオンでもジスキネジアがひどい時は気をつけて歯磨きをしなければなりません。手が過剰に動くため口の中を傷つけやすく、私は一度に4か所の口内炎をつくったことがあります。

こうならないために今は、そろそろ薬の効き目が弱くなってきそうだなというタイミングの時に歯磨きをするようにしています。薬を飲む時間はほぼ同じなので、毎日繰り返していると何となくそのタイミングがわかるようになりました。

私とパーキンソン病【②歯医者/歯科受診】

歯科医院に行った時にお願いしたいこと

パーキンソン病の人はオフ(動きにくい時)や、ジスキネジア(自分の意思とは関係なく動く時)があります。私も例外ではありません。病気が進行していく中、歯科受診する際にいくつか心配な点があります。

一つ目は、受診する際は薬を調整して動ける状態で行きますが、待ち時間や治療時間が長くなると帰る頃には動きにくくなっているのではないかということです。

そのため「どのくらいの時間を要するか」をあらかじめ教えてもらえると助かります。また、麻酔などをしたらしばらくは飲食ができなくなるため、薬を飲みたくても飲めないという状況も考えられます。薬を飲まないと動けない(動きにくい)ので、治療前に今日は麻酔をするかしないかなど、どのような感じで進めていくか説明してもらえると、麻酔を打つ前に薬を飲むと言ったような工夫ができるかもしれません。

二つ目は、ジスキネジアで体が勝手に動く時、治療に差し支えないかです。自分で制御できたらいいのですが、できないため、そういう時はどういった対応をしてもらえるのか事前に説明してもらえると助かります。

まとめ

口の中のケアがとても大切だということは、看護師をしていた時から耳にしていたので知っていました。そのため、病気が発症してからも気になってはいたものの、ジスキネジアなどの副作用がいつ出るかわからず、しばらく歯医者に行くことができませんでした。

しかし、病気のことを理解し症状に対しても対応していただけていることで、今では安心していくことができるようになっています。今回はパーキンソン病を持つ方に向けて、私が毎日の歯磨きで工夫していること、歯医者さんでお願いしていることをご紹介しました。

パーキンソン病の病態は、脳の黒質という部分の変性が主体といわれており、症状は上記の本編でもご紹介があったとおり、①安静時振戦、②筋強剛(筋固縮)、③無動・寡動、④姿勢反射障害を特徴とする進行性の運動障害です。これに加えて、⑤同時に二つの動作をする能力の低下、⑥自由にリズムを作る能力の低下などがあります。

パーキンソン病は日常生活への耐容能で重症度を判断します。50-60歳程度で発症することが多いのですが、40歳以下で発症するものは若年性パーキンソン病と呼ばれます。現時点では薬物療法(薬を飲む方法)や手術を行い、対症療法(症状を抑える方法)をすることが一般的な治療方法です。

自制できない震えや、思った通りに体が動かせない、体の一部が勝手に動き止まらない(不随意運動/ジスキネジア)といった症状は、日常生活を送ったり歯科治療を受けたりする上でハードルになってくることでしょう。

薬を服用する時間を工夫したり、担当医と相談して診察の時間や内容を調整したりする方法は、非常に良い方法だと思います。一方で安静時振戦やジスキネジアの程度が薬でコントロールできないなど、症状が重症化してくると、そのような対応では治療が不可能な場合があります。そのような場合は、静脈内鎮静法や静脈麻酔、全身麻酔といった、薬物を用いた行動調整法が適応になります。静脈内鎮静法や静脈麻酔、全身麻酔を併用すると、患者さんも担当医も安全に治療をすることが可能となります。

監修歯科医師
黒田 英孝

ABOUT ME
ライターネーム「Sam」
約10年間看護師をしていました。看護師をしていた時に口腔ケアの重要性を学んだことがあり、パーキンソン病を発症してから「オフ」の時間帯の歯磨きが難しいという現実の中、口腔ケアの重要性を改めて感じています。