歯科コラム・体験談

重度知的障害者の虫歯予防をどのように支援すべきか

支援者として、知的障害者の方の口腔衛生については、とても慎重になります。なぜかと言うと、重度・中等度・軽度の障害によって、その支援方法が異なるからです。

軽度知的障害の場合は自分で痛みを感じた時には、自分で伝えることができます。中等度知的障害の方も、言葉で的確に伝えることが難しくとも、伝えるという手段を取ることができます。

しかし、重度知的障害の場合は、受診で伝えることが非常に困難であるため、気づいたときには大きな虫歯になっているということも少なくなく、支援者は毎日お口の中を確認することが必要です。

健常者・障害者に関係なく、口腔衛生は健康を保つ上で非常に大切です。そのため、虫歯や歯周病については、定期的に確認をしています。

歯磨きの習慣化と毎日のチェック

自分で痛みや不快を感じても、他者に伝える手段が少なく、また虫歯と気づくことが困難である重度知的障害者の方にとって、毎日の就寝前の歯磨きはお口の中のチェックにもなります。

重度の知的障害があっても、スタッフが一緒に毎回「同じタイミング」で「同じ場所」で歯磨きをして、毎日の日課にすることで、歯磨きをルーティーンにすることができ、自分から歯磨きをすることを覚える方も多くいます。

いったん生活の中で習慣化されると、そのタイミングで歯磨きをしないことに違和感を持つ方が多く、歯磨きという動作を受け入れてもらうことは、それほど難しくはないと感じています。

必要に応じて就寝前のチェックや仕上げ磨きなども、歯磨きの習慣化と同時に取り入れる必要があります。

日々の確認を通して虫歯を発見する

しみる、痛いなどの不快感を直接言葉で伝えることができない障害者の虫歯を見つけるには、支援者が日々確認を行うか、本人の様子の変化に気づいてあげなければなりません。

ただ、支援者は専門家ではありませんので、歯が黒くなっている、欠けているなど目視できる範囲の確認はできますが、見落としが多いことは否めません。

本人の様子の変化で気づくためには、食欲が落ちたり、普段よりイライラしていたり、機嫌が悪かったり、いつもできていることができなかったりなどの動作や感情の変化を観察します。

ただ、そのような行動があってもすぐに虫歯が原因とはなりにくいため、どうしても虫歯に気づくのが遅くなります。やはり日々の確認が必要です。

歯科医院で私たちが心がけること

重度知的障害者の場合、スムーズに診察室へ誘導することが難しいことがあります。虫歯の治療の必要性を説明してもなかなか理解することは難しいため、「怖いことをする場所」と感じないようにする配慮が必要です。

必要以上の声掛けやいつもと違う対応などは、敏感に感じ取る方もいるため、いつもと変わらず笑顔で支援者も対応する必要があります。

もちろんご家族の方がいる方が安心する障害者であれば、家族に同伴していただくことをお勧めします。もしご家族の協力が仰げない場合であれば、一番信頼関係を気づけている支援者と一緒に受診します。

重度の知的障害者の方が歯科医院で受診する際に大変なのは、適切に対応してくれる歯科医院を見つけることです。治療に際しては眠る薬を点滴で入れてもらうことや、全身麻酔が必要なことが多く、そうした治療方法を実施している歯科医院と上手く連携を取ると、継続的な受診につながります。

まとめ|重度知的障害者と虫歯予防

重度知的障害者は、言葉で自身の思いや不安を伝えることが難しいため、それを態度で表すことが多く、時には不安から暴力的な行動を取ったり自傷行為をしたりする方もいらっしゃいます。

そして、周囲の人が話していることや表情を、とても敏感に感じ取ります。何も分からないだろうと配慮に欠けた対応をすると、その方の口腔衛生についてはもちろんのこと、治療につなげるまでに多くの時間を要することになるでしょう。

口腔衛生は全身の健康に影響を与えます。支援者が虫歯予防に対して知識と意識を持ち、日ごろから対応していくことはとても大切です。

知的障害(精神遅滞)がある方の場合、新しいことへの適応が難しく、歯科治療に協力が得られないことがあります。また、脳性麻痺の方では、治療中に不随意運動や原始反射が現れ、一定時間、口を開けていることや同じ姿勢を保つことが難しいことがあります。疾患がない定型発達者(健常者)でも、歯科治療に対する不安や恐怖から不適応行動を取ってしまうことがあります。このような場合、患者の反応や行動をコントロールし、患者・担当医ともに快適な環境下で、安全で確実な歯科治療が行えるように、行動調整を行います。患者の状態や、歯科治療に対する適応能力、その人に必要な治療内容から、適切な行動調整法を選択し、治療計画を立てます。

[監修歯科医師:黒田 英孝]

ABOUT ME
ライターネーム「Sleepy」
10年以上、福祉関係の仕事に就いています。精神保健福祉士・介護福祉士を持っており、精神科病院の職員ですが、同法人の施設において精神障害者の方を中心として支援を行っております。仕事はまじめに楽しく笑顔をモットーに毎日すごしています。