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摂食嚥下障害

摂食嚥下障害とは

『摂食』とは食べ物を認知し、手にとって口にはこび、咀嚼し、飲み込み、胃まで食塊が到達するまでの一連の過程を指します。『摂食障害』が拒食症や過食症などの精神障害による摂食の問題であるのに対して、摂食の行為や機能の障害は『摂食嚥下障害』もしくは『摂食機能障害』と呼ばれます。摂食機能は5期に分けて考えられており、食べ物を認知し(先行期)、咀嚼により食塊形成し(準備期)、口から咽頭へ送り込み(口腔期)、咽頭から食道へ送り込み(咽頭期)、食道から胃へ送りこむ(食道期)機能として定義づけられます。

摂食嚥下障害よって生じる問題

摂食嚥下障害によって生じる問題は大きく分けて4つあげられます。

1)誤嚥性肺炎
摂食嚥下障害の主な兆候の一つに誤嚥(飲食物や唾液があやまって気管内に入ること)がありますが、誤嚥物が原因でおこる肺炎を誤嚥性肺炎といいます。誤嚥性肺炎の原因は(1)食事中の飲食物の誤嚥 (2)夜間の唾液誤嚥(micro aspiration) (3)胃食道逆流による嘔吐物の誤嚥 (Mendelson’s syndrome)があります。

2)窒息
現在不慮の事故による死亡数は、窒息によるものが交通事故によるものを超えて第1位となっています。窒息の定義は鼻や口の閉鎖、異物による気道の閉鎖、溺死、生き埋め、空気中の酸素欠乏などですが、摂食嚥下障害患者の場合は食物や痰などによって気道の閉鎖してしまうことがあります。咽頭の嚥下機能低下がベースにあった状態で、認知機能の低下や咀嚼機能の低下により、食塊形成(食物を噛んですりつぶして粉砕し唾液と混ぜ合わせ飲み込みやすい形態にすること)が不十分なままに飲み込んだ結果、咽頭・喉頭を閉塞させてしまうのです。

3)低栄養・脱水
嚥下機能が低下している状態で、特に食事調整や代替栄養摂取法(胃ろうや点滴など)の適応がなされない場合、食事摂取量、飲水量が減少します。むせてしまうから食べたくないという心理が働いてしまうこともあるでしょう。また、嚥下反射惹起が遅延している患者は、水分に関してとろみ剤を付加することによって、誤嚥の頻度が減る場合がありますが、とろみ剤は風味を損ねてしまうことから、人によっては「まずいので飲まない」といって水分摂取量が減ってしまう場合もあるので注意が必要です。

4)食べる楽しみの喪失
食事は単に栄養摂取だけの意味があるわけではありません。施設入所している高齢者を対象におこなったある調査では、施設での関心事の1位は食事でした。食事はQOL (Quality of Life) を左右する重要なファクターとなっています。

摂食嚥下障害の病態

前述の摂食機能の5期分類(先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期)のいずれか、または複数にわたって障害され、日常の社会生活に支障をきたした状態を摂食嚥下障害といいます。すなわち食事中にむせていることだけが摂食嚥下障害ではないということです。それぞれの病態の具体例を以下に挙げます。

1)先行期障害
拒食、異食(食べ物でないものを食べてしまう)、食べ物のもてあそび、つめこみ食べ等。

2)準備期障害
咀嚼障害、食塊形成不良。歯の欠損や咀嚼筋の異常、舌・頬・口唇の運動障害、口腔乾燥による唾液の減少等によって食塊形成が不良となります。

3)口腔期障害
口から咽頭への食塊送り込みが不良となります。飲食物の口腔内残留や、口角からの漏出などの症状が挙げられます。

4)咽頭期障害
咽頭から食道への移送に障害がおこります。誤嚥、喉頭内侵入(飲食物や唾液が喉頭内に入るが気管内には入らないこと)、嚥下後の咽頭残留、窒息が主な症状として挙げられます。
咳反射が低下している患者では、むせない誤嚥(不顕性誤嚥)が認められ肺炎のリスクが高いため、注意が必要です。

5)食道期障害
症状として、嘔吐、胃食道逆流が挙げられます。嘔吐を繰り返すと胃酸により逆流性食道炎になってしまうことがあります。経管栄養による栄養管理をしている場合でも、嘔吐物による誤嚥により誤嚥性肺炎になることがあります。

摂食嚥下障害の原因

摂食嚥下障害の原因となる疾患を表1に示します。実際には加齢や廃用症候群(過度の安静による機能低下)によっても摂食嚥下機能は低下するため、原因を単一に特定するのは難しいでしょう。

まとめ

摂食嚥下障害は病態や原因がバリエーションに富んでおり、肺炎など健康上のリスクが高いため、対応には十分な知識と技術が必要です。周囲で摂食嚥下障害の方を見つけた場合は、まず専門職につなぐことが重要となります。摂食嚥下関連医療資源マップなどを利用して、地元の専門職の方につないでいきましょう。

 

[筆者]
歯科医師│飯田貴俊
・神奈川歯科大学附属病院 全身管理高齢者歯科 診療科准教授
・日本大学歯学部摂食機能療法学講座 (非常勤)
・日本摂食嚥下リハビリテーション学会 認定士
・日本老年歯科医学会 専門医 摂食機能療法専門歯科医師
・Quo会
※関連リンク:神奈川歯科大学附属病院

※当記事に関するご質問等は「障害者歯科ネットのお問い合わせページ」よりお問い合わせください。

ABOUT ME
歯科医師|飯田貴俊
歯科医師|飯田貴俊
1984年生まれ。横須賀にある大学病院で診療科准教授として患者さんの治療と学生教育、研究に従事しています。食べる機能の障害に対するリハビリを外来や在宅・施設・病院に訪問しておこなっています。