歯磨きは毎日行う大事な生活習慣の1つです。しかし、お口の中に歯ブラシを入れることや、お口の周りをさわられることを嫌がる人も中にはいらっしゃるのではないでしょうか。
嫌がるからといって歯磨きをしないと虫歯や歯周病になります。そのため、歯磨きを避けることはできません。そこで今回は、歯磨きを含む口腔ケアの支援・介助磨きを行う上でのポイントや対処法についてご紹介します。
歯磨きを含む口腔ケアの基本的な支援方法
障害の種類(発達障害・知的障害・運動障害等)やその程度によって歯磨きなどの支援方法は異なりますが、まず、いずれの障害にも共通する基本的な支援方法をご紹介いたします。
【1】声をかける
「歯磨きをしましょう」「歯ブラシを持ちましょう」と声かけをします。「うまく磨けていますね」「綺麗になりましたね」と声をかけるだけで、やる気を起こさせます。
【2】見守る
声かけはもちろんのこと、歯磨き中もそばにいて見守っていることを伝え、不安やストレスを取り除くことが大切です。
【3】手添え磨き
歯磨きをする上で、磨きにくい部分は、歯ブラシを動かし易いように手を添えてあげて、一緒に磨きましょう。
【4】介助磨き
自身で歯磨きを行えない場合は、全介助になります。介助者が歯磨きを行いましょう。
では、次に口腔ケアの支援方法の中でも特に押さえておきたい手添え磨きと、介助磨きについて詳しくご紹介していきましょう。
手添え磨きを行う上でのポイント
自身では磨きづらい部位は、歯ブラシの持ち方や手首の角度を定めてあげる必要があります。そのため、手を添えてサポートしてあげます。また、今までは全介助だったが、初めて歯磨きにチャレンジするなど場合、手添え磨きはとても効果的です。その場合、時間はおよそ10秒から30秒に留めておきましょう。
介助磨きの悩みを解決するための対処法
介助磨きを行うとき、歯磨きを苦痛なものと認識し、口を開けたがらなかったり、歯ブラシを噛んだまま離さなかったりと、様々な悩み/課題があります。ここでは、その対処方法をご紹介します。
歯磨きをする時に、口を開けたがらない場合の対処法
いきなり口に触れると拒否される可能性があります。まずは、口から離れた肩、頬などに触れ、口を触れられることに脱感作させる必要があります。また、会話やコミュニケーションを取りながら、緊張感を取り除きます。そして、口の端である口角の部分から、人差し指を挿入し、歯の表側から歯ブラシを小刻みに動かしながら磨いていきましょう。
歯の内側を磨きたいが、頑なに口を開けてくれないことがあります。そんな時は、一番奥まで指を入れ、歯肉を軽く指の腹で圧迫すると、口を開けてくれることがあります。このとき、誤って指を噛まれてしまう可能性があるので、注意しながら行いましょう。
歯ブラシを咬んだまま離さない時の対処法
噛んだまま離さない場合は、無理に噛むのを止めるように促さず、噛んでもいい歯ブラシと、介助者が磨く歯ブラシの2本を用意して歯磨きを行いましょう。
介助磨きを嫌がる時の対処法
介助磨きを嫌がる原因は、虫歯や歯周病が進行し、歯ブラシがあたることで痛みが生じて嫌がる場合や、歯ブラシの毛先が硬く歯肉や粘膜に当たるのが嫌だと感じる場合、以前の歯磨きで嫌な思いをした経験がある場合などが代表的です。
介助磨きを嫌がる場合は無理に行おうとはせず、10カウントしている間だけ歯磨きをさせてもらったり、少なくともうがいをしてもらったりなどして、できるだけ口を清潔に保ちましょう。
また、1日1回も歯磨きができない場合もあるかと思います。しかしそれでは、虫歯や歯周病になるリスクも高まるので、少なくとも1日1回は、強制的に介助磨きを行うことを大切です。
しかし、あまりに強引に歯磨きをしてしまうと、歯磨きを嫌な行為と認識してしまい、歯磨きや口腔ケアを拒否してしまうことにもなりかねません。介助磨きのポイント、対処方法の知識を身に着けることが、歯磨きをするご本人と、介助者の両者がスムーズに歯磨きを行う手立てになるかもしれません。
障害種類による特性に応じた対処法
障害の種類による特性によっても、対処する方法が異なります。以下のポイントを押さえてサポートしましょう。
自閉症スペクトラム(ASD)〜自閉症やアスペルガー症候群など
ASDの方は、パターン化した行動やこだわりの行動を好むという特徴があります。そのため、甘い物を食べ続けて虫歯になり易い人が多い一方では、歯磨きを過度にやりすぎてしまい、歯や歯肉を傷つけてしまう人もいます。
また、ASDの特徴の一つに、感覚過敏があります。そのため、不適切な介助磨きで歯磨きが嫌いになってしまう方が多くいます。そのような方は歯ブラシなどを使用しての歯磨きや歯磨き粉を使用することを嫌がることが多く、接触拒否や、耳を塞いで拒否などで表現する方もいます。
ASDの方に対する介助磨きは、障害の特徴を上手に活かして、決まった時間に、決められた場所、決められた口腔ケア用品(歯ブラシ)を使用して、歯磨きをすることを習慣づけることで、上手に歯磨きができるようになることが多くあります。また、絵カードを使用することも効果的です。歯磨き粉は強い刺激になる可能性があるため、無理に使用する必要はありません。
知的障害の程度が軽度で、自分で歯磨きをする習慣がある方もいると思います。そういった方の中には、複雑な動作である歯磨きがうまくできない方もいらっしゃいます。そのような場合は、手添え磨きを行うか、または指にガーゼを巻き付けて、サポートしてあげます。
注意欠陥・多動性障害(ADHD)
ADHDの主症状は、多動性、不注意、衝動性です。気が散りやすく、1つのことに集中することが難しい傾向にあります。そのため、歯磨きをすることだけに集中できるように、テレビや音楽など気がちるものは控え、環境を整えましょう。
多動傾向にあるため落ち着いてじっとしていることが難しいことがあります。タイマーを用いたり、数をかぞえたりして、最終的な見通しを立ててあげることで、上手にじっとしていられることも多くあります。
不注意から、生活の中で歯を磨くことを忘れてしまう場合もあります。“食事をしたら歯を磨く“など一連の流れを習慣化させることも大切です。
学習障害(LD)
LDは「全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、書く、計算する又は推論する能力のうち特定の者の習得と使用に困難を示す様々な状態を指すもので・・・視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や環境的な要因が直接の原因になるものではない」と定義づけられている障害です。
LDの方に対応する場合は、本人が困難な状況を際立たせない配慮が必要です。外部からの情報を記憶することが苦手な場合は、歯磨きの重要性をゆっくりと根気よく伝えましょう。大切なポイントを押さえた情報分析ができず、空間を把握することが難しい場合は、ゆっくりと磨く場所を誘導してあげます。細かい作業など指を使うことが苦手な場合は、時間をかけてゆっくりと見守り、上手くできなくても叱ることはせず、できたことを褒めてあげます。
運動障害・肢体不自由
前述のような発達障害の方だけでなく、もちろん運動障害の方の手添え磨きや介助磨きのポイントもあります。例えば、寝たきりなどで座る姿勢が出来ない場合、ファーラー位(背もたれの角度を45‐60度にする姿勢)やセミファーラー位(背もたれの角度が30度程度)にして、誤嚥や誤飲をしにくい体勢をとる必要があります。座って歯磨きができる方や、立って歯磨きができる方は、クッションや固定具を使って姿勢保持をし、介助・補助しましょう。
※上記にご紹介した方法は代表的な例であり、一人一人の特性に合った対処法があります。かかりつけ歯科医院や最寄りの歯科医院を受診し、歯科医師や歯科衛生士に相談しましょう。そして、虫歯や歯周病のないお口を目指しましょう。
[参考]口腔清掃アイテムと活用法
介助磨きをサポートしてくれる、口腔清掃アイテムがあります。以下のようなアイテムを活用して、よりよい口腔環境を目指していきましょう。
【360°ブラシがついている円型歯ブラシ】
歯はもちろんのこと、歯肉や舌、口腔粘膜などをほどよく刺激しながら汚れを取り除くことができます。
【舌ブラシ】
舌にも汚れが沈着します。これを舌苔とよび、お口の中が乾燥しがちな方に多くみられます。舌を傷つけることなく、舌苔を取り除くために、舌ブラシが最適です。
【口腔ケア用の綿棒】
歯ブラシの毛先の刺激が苦手な場合は、口腔ケア用の綿棒を用いると、完璧にとはいきませんが汚れを除去することができます。
まとめ
歯磨きを含む口腔ケアの支援・介助磨きを行う上でのポイントや対処法をご紹介しました。口腔ケアや歯磨きは毎日行う生活習慣の一つです。支援や介助を受ける側、行う側ともに、負担の少ない口腔ケア、歯磨きを行うことが長続きさせる秘訣です。
※当記事に関するご質問等は「障害者歯科ネットのお問い合わせページ」よりお問い合わせください。